- 越境EC伸長の一方で商標の未申請は6割以上
数年前に、中国人などのインバウンドによる日本での“爆買い”が話題となりました。しかし実は、中国人はインターネットで日本の商品を購入していたことが経済産業省の調査でわかっています(参照:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査))。
これは「越境EC」というもので、日本を含む世界中で年々市場が拡大しています。日本においては、コロナ禍でインバウンド消費が見込めないことも関係していますが、テクノロジーの進化なども追い風となっており、同調査によれば、中でも対中国向けの越境EC市場は1兆6,558億円と前年比で7.9%の高成長を実現しています。さらに2027年までにかけて、世界の越境EC市場は右肩上がりで成長することが予想されています。
国別で見れば、日本の越境EC利用率は各国と比べて非常に低いものの、他の主要各国では30%以上と、越境ECの利用が生活に組み込まれていると言えるでしょう。その中でもMade in Japanの商品は人気があり、それが前述した対中国向けの越境EC市場が前年比7.9%アップしている事実に現れています。
しかし、その一方で、日本企業が抱える問題点も浮き彫りとなりました。これは当社が今年2月に行った「越境EC事業における商標に関する実態調査(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000029675.html)」によるものですが、越境ECで自社ブランドを海外販売する際に、販売する国で商標を事前に申請しなかった人は64.4%。販売する国で商標を申請しなかったことにより、後悔した人は41.6%。その後悔の理由に、「商標権が問題となったこと」と回答した人は66.7%にものぼりました。
本調査の中には、商標申請をしなかったことで、「外国の現地会社から商標をとられた」や「商標問題で海外から撤退することになった」といった事例も明らかになっています。これら法的トラブルに起因する事業リスクを防ぐためには、自社商品の海外販売時における、販売国での商標申請の重要性を認識する必要があるのです。
なお商標の未申請という状況は、越境ECに限ったことではありません。同じく今年2月、当社が国内EC事業を展開する経営層・役員・担当者に行った国内EC事業における商標に関する実態調査(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000029675.html)では、約3割が自社商品展開前に「商標登録していない」と回答しています。理由は「商標登録のメリットが分からなかった」「申請業務より他の業務を優先していたから」などがあげられています。そして、商標登録しなかったことにより後悔している内容として、71.4%の人が「同じ、または似ている商品名で販売されたこと」と回答しています。
- 海外市場で商標を巡るトラブルが頻繁に起こる理由
また、中には日本の有名企業のブランドが中国市場で先に登録されていたことにより、裁判で負けて、賠償金の支払いが発生しているようなケースもあります。日本国内では海外市場に比べて悪質な事前申請や賠償金等に発展する案件は少なく、紳士的な対応で終わるケースがほとんどであり、国内ではあまり大きな問題となるケースは少ない一方、商標権の意識という意味では米中より低いという側面は否めません。
しかし、海外市場では悪質な模倣や盗用、そして訴訟が多く、さらには被害額も高額となるため、自然と権利の意識が高くなります。いずれにせよ、日本の企業が越境ECを使って自社ブランドを海外販売する際には、販売する国で商標を事前に申請することがきわめて重要になります。
- プラットフォーマーが、取り扱い商品の『商標』を管理する時代へと変わる
また、同時に注目すべきなのが、ECプラットフォーマーの姿勢です。例えばAmazonは、商標の優先度を高めると明確に打ち出しており、似ている商品があった場合は、商標がある商品を優先的に取り扱っています。商標登録をしていることが条件の「Amazonブランド登録」を利用すれば模倣品にたいして適切な処置ができたり、ブランドを保護することが可能です。そして、「ブランド登録」だけでなく、個別に商品を特定し購入者の手に渡る前に積極的に偽造品を防止するサービス「Transparency」や「Project Zero」等を用いて偽造品の撲滅を目指しています。
同様に中国でも取り組みは進んでいます。2019年に電子商取引法が施行されており、そこではECサイト運営者に対して、権利者から申し立てがあった場合は必要な措置を講じるよう求めるものや、商標申請の簡易化、悪意のある商標申請の排除などが含まれています。
さらに、中国大手のアリババも商標の取り組みには先進的です。AI商標登録ロボットサービスを無料で開放し、全般的なソリューションセットを提供することを発表しています。また、BtoC向けのECプラットフォームであるTmall(天猫)では、出店社の審査において、中国の国家知的財産局(特許庁)が発行した商標登録証あるいは商標登録申請受理通知書の提示が求められています。
数字で見ても、中国国内の消費者の意識が変わってきていることがわかります。中国の消費者が越境EC事業者に改善を望むことに関するアンケート結果では「真正商品であることの保証」(55.7%)が1番多い回答となっており、消費者も模倣品ではなく、成否の商品を求めるようになって来ているのです。そしてこの正規の商品であることを示す一つの方法が商標なのです。
日本国内では権利意識がまだ低いこともあって、商標の取り組みには後れを取っています。しかし、スタートアップによる先進的な商品やサービスが続々登場するクラウドファンディングが身近になった今、商標の優先度を高めるフェーズに来ているといえます。
例えばECプラットフォーム内で、似ている商品名やサービス名を見つけたら通報や警告文を送れるなどの機能があれば、警告する側も、される側も、権利に関するリテラシーが上がっていくと考えています。実際に当社が2021年5月に実施した、越境EC事業を行う経営者・担当者への調査によれば、82.7%がこのような機能が欲しいと回答(n=81)しており、必要性が明らかとなりました。
現状、日本ではこれらプラットフォーマーが商標に比重をおいて運営しているわけではありませんが、より安全で公正な取引は、世の中で求められています。越境ECにより日本の企業が海外進出していく面も踏まえれば、権利の意識も上がっていくでしょう。そして、2~3年後には日本のECプラットフォーマーも「取り扱い商品の商標管理は自社のサービスにおいて欠かせない」という認識になると想定しています。同様に2021年5月の調査によれば、79.1%がECプラットフォーマーに対し、商標登録管理を行なって欲しいと回答(n=81)しています。また、その理由としては商標侵害への対策に手間がかかることが最も多い意見となっています。
コロナ禍で、売買の場がさらにオンラインへと進んでいます。一方で、実際に購入するモノが手にとって確認できない以上、「信用」での購入となります。これら信用をいかに作るか、それがECプラットフォームに求められる役割であり、商標管理は信用を作る大きな要素となるでしょう。
- cotobox代表、五味 和泰からコメント
世界的に猛威を振るう新型コロナウイルスのため、国内外の人の移動は多くが止まっており、まだ見通しがついていない状況です。購買においては、リアルからオンラインへと進んでいます。これら状況もあり、国内ECはもちろん、海外の人が日本のモノを購入する越境ECにより一層注目が集まっています。経済産業省の資料によると、現在、大半を締めている中国、アメリカだけでなく、経済規模が拡大している東南アジアやロシア、そして個人の購買力が高いUAEなども越境EC市場として今後期待できるとのことです。海外で商品を販売する以上、海外展開時には現地のルールに従い、しっかりと商標をとってビジネスを進めることが大切です。さらにAmazonをはじめとするプラットフォーマーも、商標に関するトラブルを回避し、安全な取引を実現するため、出品者や出品者が商標を持っていることを重視し始めています。越境ECを見据えて商品展開を行う場合は、日本国内はもちろんのこと、いち早く販売先各国の商標を確認し、必要であれば登録を行うこと。これらを丁寧に行うことが、越境ECでビジネスを拡大させていくカギとなるでしょう。
- 会社概要
企業名 :cotobox株式会社(https://corp.cotobox.com/)
所在地 :東京都千代田区内幸町2-1-1
代表者 :代表取締役社長 五味 和泰
事業内容:Cotoboxの開発・販売、商標業務DX導入支援、知財情報提供及びコンサルティング、それらに付帯する事業の企画・開発・運営